講師コラム

エピソード1

その知らせが届いた時、誰もが驚き、言葉を失った。
 彼はクラスの誰よりもできた。彼が開成中に合格するのを疑う者はなかった。二番の子も三番の子も四番の子もみんな合格した。

 しかし、彼だけは落ちた ― 。

 僕は彼らと約束していた。「たとえどんな結果になろうと、必ず自分で報告に来い」と。その約束を守るために、彼がこっちに向かっているとの電話をお母さんからもらった。泣き崩れて発表会場の地面のコンクリートに拳と頭を打ちつけたという。

「先生 ―」「おう ―」。明るく自然に。
「やられたか」「はい」気丈に答える。

「人間はなあ、やられた方が意味があることの方が多いんだぞ」
「・・・」
「他のみんなは合格した。おまえは入って当然なのに落ちた。ということは神様がおまえは開成に行くべきではないことを教えてくれたんだ。開成なんかじゃなく、おまえを選ぶことができた学校こそがおまえが幸せになる学校だという意味なんだ」。

 唇をかみしめて、彼はじっと僕の目をみつめていた。
 そこへ、開成に合格した同級生がご家族と共にお礼に来た。教務スタッフの対応で、それと悟った彼の目が泳いだ。
「あいつにちゃんとおめでとうって言って来い!」
「え?」
「友達が合格したんだ。祝福してやるのは当たり前じゃないか」僕は彼を連れ出した。

 彼は歩み寄って、友達の手を両手でつかみ、そして叫んだ。
「おめでとう!おめでとう!おめでとう ― !」
 つかんだ両手を激しく振った拍子に、彼の両目から涙がほとぼり散った。
 友人の家族はその場で泣き崩れた ―。

「心がバラバラのままでした。でも、もしあの時彼を祝福することができず、隠れていたら、僕はもっとずっと不合格をひきずっていたように思います。あれが僕の原点でした。今、握手できた自分のこと、カッコ良かったと思います。先生はヒデェーけど ―」

 彼は海城高校に通い、学内で三番と下らなかったそうだ。そして、2005年春、東京大学理科Ⅰ類に合格した。
 現在、忙しい学業の傍ら、ありがたいことに龍馬を手伝ってくれている。

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